過疎地特例と医療提供機能連携確保加算 — 地域病院の生き残り戦略
令和8年度改定では、都市部の大病院向けの入院基本料新設と並行して、医療資源の乏しい地域の病院向けに複数の特例・加算が用意された。急性期病院Bの過疎地特例、医療提供機能連携確保加算(入院初日600点)、訪問看護遠隔診療補助料(265点)など、地域で面的に医療を支える病院が使える施策を整理する。
要約
- 急性期病院B一般入院料には、人口20万人以下の地域(基本診療料施設基準通知 別紙4)および離島(別紙5)を対象にした過疎地特例がある。「二次医療圏内で救急搬送件数が最大」という相対基準で判定されるため、都市部の絶対件数要件を満たせない地域基幹病院でも算定余地がある。
- 医療提供機能連携確保加算(A254)は、人口の少ない地域で医師派遣・巡回診療・情報通信機器を用いた診療のいずれか2つを実施しており、かつ緊急入院を受け入れた場合に、入院初日に600点が算定できる。
- 訪問看護遠隔診療補助料(C005-1-3)は1日265点。看護師が患家を訪問し、医師は情報通信機器を用いて診療を行う「D to P with N」型の診療を評価する。
- 地域で面的に医療を支える病院にとって、これらの施策は「病床数を増やす」のではなく「少ない医療資源を地域内で薄く広く機能させる」方向の投資を促す設計になっている。
急性期病院Bの過疎地特例
別のコラムで扱ったように、急性期病院B一般入院料の算定要件は4通り用意されている。そのうち「ウ」と「エ」が地域特例にあたる。
- ウ:基本診療料施設基準通知 別紙4(人口20万人以下の地域)に所在する保険医療機関で、当該二次医療圏の中で救急搬送件数が最大かつ年間1,000件以上
- エ:基本診療料施設基準通知 別紙5(離島)に所在する保険医療機関で、当該二次医療圏の中で救急搬送件数が最大
ウ・エともに「二次医療圏内で最大」という相対基準が採用されている点に注目したい。都市部では年間1,500件以上(選択肢ア)あるいは救急500件+全身麻酔500件(選択肢イ)という絶対値が要求されるが、人口20万人以下の地域や離島では「地域内で最も救急を受けている病院」であることを条件に、年間1,000件程度で要件を満たせる。
なお、別紙4の「人口20万人以下の地域」は、急性期病院一般入院基本料および急性期総合体制加算の施設基準に固有の地域定義で、基本診療料施設基準通知(保医発0305-7号)の別紙4に都道府県・二次医療圏・市町村別の一覧が掲載されている。「医療資源の少ない地域」(同通知別紙2)や「人口の少ない地域」(同通知別紙3)とは異なる概念で、医療提供機能連携確保加算(A254)が対象とする「人口の少ない地域」(別紙3)とは指定範囲が異なる点に注意。
これは単なる救済策ではなく、地域医療構想の観点で「その医療圏における急性期機能の集約先」となる病院を明示的に位置づける仕組みと理解するのが適切。逆に言えば、過疎地域であっても同一二次医療圏に複数の候補病院がある場合は、どこかの1病院に集約する方向にインセンティブが働く。
なお、二次医療圏の再編統合が行われた場合には、当分の間、旧二次医療圏での「最多」の評価を維持できる経過措置がある(基本診療料の施設基準等、4の10の(6))。
医療提供機能連携確保加算(A254)
令和8年度改定で新設された入院基本料の加算。入院初日に600点を算定する(A254)。
算定要件
施設基準通知の第26の12に規定される主な要件:
- 基本診療料施設基準別紙3に掲げる人口の少ない地域における外来・在宅診療体制の確保に係る診療実績として、次のア〜エのうち2つ以上を満たす(入院中の患者以外の患者に対する診療に限る。同一二次医療圏内で満たす必要あり)。
- ア:当該地域に所在する他の保険医療機関への医師派遣による診療日数が直近1年間に40日以上
- イ:他医療機関の医師休暇時等の代替医師の臨時派遣日数が直近1年間に4日以上
- ウ:巡回診療の実施日数が直近1年間に20日以上
- エ:情報通信機器を用いた診療の実施日数が直近1年間に40日以上
- 上記ア・イで紹介された患者、またはウ・エで診療を受けた日から3か月以内の患者が病状急変などで緊急入院を要した場合、前年度に3件以上受け入れていること。
- 「救急医療対策事業実施要綱」に規定する第二次救急医療機関または第三次救急医療機関であること。
- 国等が提供する電子カルテ情報共有サービスまたは地域の医療情報共有ネットワークを活用する体制が望ましい(任意要件)。
疑義解釈で示された論点
- 疑義解釈02-020:要件(1)のア〜エは、加算を算定する病院の所在二次医療圏そのものではなく、「別紙3の人口の少ない地域に該当する二次医療圏」で2つ以上を満たす必要があるとされた。つまり「自院がある医療圏」と「診療支援を届けている医療圏」が異なっていてもよいが、診療支援先は別紙3要件を満たす地域でなければならない。
- 疑義解釈02-021:巡回診療は「巡回診療の医療法上の取り扱いについて」(昭和37年6月20日医発第554号)に基づく、加算算定病院の事業として行う保険診療に限定される。単発の出張診療ではカウントされない。
設計の意図
入院初日600点という比較的高い加算が設定されている背景には、「地域の医療提供体制を、自院の入院医療とは別に、面で支えている病院に対して、入院受入時にまとめて評価する」という考え方がある。
ポイントは、外来・在宅の診療体制維持のために投じているリソース(医師派遣、巡回、オンライン診療)が、入院料の加算という形で回収できる仕組みになっていること。従来は訪問診療の算定や巡回診療の診療収入のみで採算を考える必要があったが、本加算の新設により「地域を面で支えることで、自院の入院収益にプラスに働く」という設計になった。
第二次救急医療機関であることが要件に含まれているため、緊急時の受け皿としての機能と、日常の面的支援とがセットで評価される構造になっている。
訪問看護遠隔診療補助料(C005-1-3)
令和8年度改定で新設された在宅医療の点数。1日につき265点で算定する(C005-1-3)。
いわゆる「D to P with N」型の診療形態を評価するもので、看護師または准看護師が患家を訪問し、医師は情報通信機器を用いて同時に診療を行う運用を想定している。医師が患家まで訪問しなくても、看護師の同席のもとで遠隔から診療・指示が可能になる仕組み。
疑義解釈02-062では、本補助料の算定日に、看護師が患家で検体採取等を実施した場合に、検体検査実施料が別途算定可能とされている。つまり訪問看護による採血・検体採取と遠隔医師診療の組み合わせを、実務上の診療行為として完結させる構造が整えられた。
5月8日発出の 疑義解釈(その5)↗ 別添1 問13・問14 で、訪問看護遠隔診療補助料の運用境界がさらに明確化された。重要なのは次の点。
- 問13: 在宅時医学総合管理料(C002)または施設入居時等医学総合管理料(C002-2)を算定中の患者に対して情報通信機器を用いた計画的診療を行う場合、看護師等遠隔診療検査実施料・注射実施料・処置実施料は算定可能だが、訪問看護遠隔診療補助料(C005-1-3)は計画的診療に該当するため算定不可。本補助料は計画的訪問診療枠とは独立した運用に限定される。
- 問14: 保険医療機関の診療時間内で医師が不在の場面に、同一機関の保険医が情報通信機器を用いて診療し、看護師等が指示により検査・注射・処置を行った場合、通常の検査・注射・処置の所定点数に代えて、それぞれの遠隔診療実施料を算定する。在宅/外来を問わず適用される。
これにより、訪問看護遠隔診療補助料(C005-1-3 1日265点)は「在医総管枠の患者には使えない」「単発の遠隔診療補助の場面で算定する」という性格が明確化された。
医師1人あたりの訪問可能件数には物理的な上限があるため、看護師に訪問を分担させつつ医師はオンラインで関わる形態は、地域医療資源の効率活用という観点で合理的になる。
「病床を増やす」から「医療資源を薄く広く使う」への設計転換
令和8年度改定全体を俯瞰すると、人口減少下の医療供給体制をどう維持するかという問題意識が明確に反映されている。A254医療提供機能連携確保加算、C005-1-3訪問看護遠隔診療補助料、急性期病院Bのウ・エ特例、これらは個別に見ると異なる点数だが、設計思想は共通している。
- 地域基幹病院を明示的に位置づける(急性期病院Bのウ・エ)
- 基幹病院が地域の他医療機関を面で支える行為を評価する(A254)
- 医師の物理的訪問を情報通信機器で代替することを評価する(C005-1-3、オンライン診療の各加算)
中小・地域病院にとっての実務的な意味は、「病床数を増やす」「看護配置を手厚くする」といった従来型の拡大戦略ではなく、「既存の医療資源を地域内でどれだけ広く機能させられるか」に収益のレバレッジがかかる改定になったということ。
届出の優先順位(地域病院向け)
現行の急性期一般入院料または地域一般入院料を算定している地方中核病院にとって、令和8年度改定で検討すべき届出の優先順位は概ね次の通りになる。
- 現行入院料の継続(本体点数は令和8年度改定で底上げ済み)
- ベースアップ評価料(Ⅰ)および必要に応じて(Ⅱ)の届出(別のコラムで詳述)
- 急性期病院B一般入院料+看護・多職種協働加算2(255点)の検討(A/B設計思想コラム、加算コラム参照)
- 医療提供機能連携確保加算(A254)の届出検討(別紙3地域での活動実績がある場合)
- 訪問看護遠隔診療補助料(C005-1-3)の運用整備(在宅診療を実施している場合)
1・2は基本的にすべての病院で、3以降は自院の特性に応じて選択するイメージ。特に4のA254は、既に医師派遣や巡回診療を実施している病院であれば、要件の2つ以上該当と緊急入院3件以上という実績ベースの届出になるため、届出作業そのものは比較的軽い。
届出実務(チェックリスト)
令和8年4月20日に厚労省が発出した 施設基準届出チェックリスト↗(病院用、別添1。5月1日一部訂正版が現行)では、地域病院向けの新設点数は次のように整理されている。
| 項番 | 区分 | 内容 | 新設/要件変更 | 届出期限 |
|---|---|---|---|---|
| 34 | 基本診療料 | 医療提供機能連携確保加算(A254) | 新設 | 令和8年6月1日 |
| 107 | 特掲診療料 | 訪問看護遠隔診療補助料(C005-1-3) | 新設 | 令和8年6月1日 |
A254・C005-1-3はいずれも「新設」に分類され、6月1日付で算定を開始するためには5月中の届出が必須。チェックリストでは両点数とも実績要件(医師派遣日数、巡回診療日数、情報通信機器診療日数、緊急入院受入件数等)の記載を求めており、届出様式への入力前に、直近1年間の診療実績を職種別・日付別に集計しておく必要がある。
関東信越厚生局では、A254医療提供機能連携確保加算に対応する様式として様式40の19(新設様式)を用意している。直近1年間の医師派遣・巡回診療・情報通信機器診療の実施日数の記載欄と、緊急入院受入実績の記載欄が設けられており、疑義解釈02-020で示された「診療支援先が別紙3地域に該当すること」の確認欄も含まれている。
なお、急性期病院B(本コラムでも触れたウ・エ特例を含む)は病院用チェックリストの項番9として、6月1日付で新規届出ルートが用意されている。同時に既存の急性期一般入院料1〜5算定病院は項番58として令和8年10月1日までの再届出が必要となるため、地域中核病院では A254・C005-1-3の6月届出 → 入院料の10月再届出 という二段構えのスケジュールを念頭に置いておく。
また、A254・C005-1-3の根拠通知は5月1日付の 改定関連通知及び官報掲載事項の一部訂正↗ で訂正版が発出されており、A254は基本診療料施設基準通知(保医発0305-7号)、C005-1-3は特掲診療料施設基準通知(保医発0305-8号)の該当章が訂正版で現行。届出書類作成時は5/1訂正版を参照のこと(A254 600点・C005-1-3 265点等の点数値は不変)。