急性期病院A/Bの設計思想と、中小病院が肩を落とさなくてよい理由
令和8年度改定で新設された急性期病院A一般入院料(1,930点)とB一般入院料(1,643点)は、病院機能の分化をより鮮明にする設計になっている。算定ハードルの数字だけを見て「当院には無理」と判断する前に、この区分がどういう意図で設計されたか、そして中小病院がどこで勝負すべきかを整理する。
要約
- 急性期病院A(1,930点)は、年間救急搬送2,000件かつ全身麻酔手術1,200件の両方を満たす大病院向け。中小病院が無理に狙うものではない。
- 急性期病院B(1,643点)は条件が4通り用意されており、そのうち「ウ」「エ」は人口20万人以下の地域や離島に限定した特例になっている。
- 看護・多職種協働加算は2段階の設計で、急性期病院Bには加算2(255点)、急性期一般入院料4には加算1(277点)が上乗せされる。B(1,643点)+加算2(255点)=1,898点となり、現行の急性期一般入院料1(1,874点)を24点上回る。
- この改定には「軟着陸ルート」が埋め込まれている。7対1看護配置を維持しきれなくなった中小病院が、急性期一般入院料4(10対1)+看護・多職種協働加算1で、現行の急性期一般入院料1と 完全に同額(1,874点) に着地できる構造。A本体に届かない病院こそ、この設計の受益者。
新区分がどこに置かれたか
令和8年度改定で A100 一般病棟入院基本料に追加されたのは、急性期病院A一般入院料と急性期病院B一般入院料の2つ。既存の急性期一般入院料1〜6と地域一般入院料1〜3は廃止されずに残っている。
r8 の一般病棟入院基本料の点数:
| 区分 | 点数 | 前改定との関係 |
|---|---|---|
| 急性期病院A一般入院料 | 1,930 | 新設 |
| 急性期一般入院料1 | 1,874 | 存続(r6: 1,688 → r8: 1,874) |
| 急性期一般入院料2 | 1,779 | 存続 |
| 急性期一般入院料3 | 1,704 | 存続 |
| 急性期病院B一般入院料 | 1,643 | 新設 |
| 急性期一般入院料4 | 1,597 | 存続(看護・多職種協働加算1の対象) |
| 急性期一般入院料5 | 1,575 | 存続 |
| 急性期一般入院料6 | 1,523 | 存続 |
| 地域一般入院料1 | 1,290 | 存続 |
| 地域一般入院料2 | 1,282 | 存続 |
| 地域一般入院料3 | 1,097 | 存続 |
B区分(1,643点)が、急性期一般入院料1(1,874点)より下で急性期一般入院料4(1,597点)より上、という挟まれ位置にある点が特徴的。ただし、ここに看護・多職種協働加算(A215)を重ねると順位構造が大きく変わる。
看護・多職種協働加算との組み合わせ
看護・多職種協働加算(A215)は2段階の設計になっている。
| 加算区分 | 点数 | 対象 |
|---|---|---|
| 看護・多職種協働加算1 | 277点 | 急性期一般入院料4 |
| 看護・多職種協働加算2 | 255点 | 急性期病院B一般入院料 |
この組み合わせで1日当たりの実質点数は次のようになる。
- 急性期病院B一般入院料+加算2 = 1,643+255 = 1,898点
- 急性期一般入院料4+加算1 = 1,597+277 = 1,874点(現行の急性期一般入院料1と同額)
Bは加算2の対象であり、加算と組み合わせることで急性期一般入院料1(1,874点)を上回る設計になっている。急性期一般入院料4+加算1も急性期一般入院料1と同点数に到達する。つまり、A(1,930点)には届かないが急性期実績がある中位病院に対し、「B+加算2」または「4+加算1」の2つの経路で、現行1と同等かそれ以上の単価ラインが用意されたのが令和8年度改定の実質的な構造。
急性期病院Aの算定要件
告示と別添2で示されているAの算定要件のうち、中心になるのは急性期医療の実績基準。
- 救急用の自動車または救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が年間2,000件以上
- かつ、全身麻酔による手術件数が年間1,200件以上(「L008」マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔)
加えて、病棟の看護師長または同等以上の職に5年以上従事し、所定の研修を修了した看護師の配置が「望ましい」要件(努力義務)として課されている。必須要件ではない点に注意。疑義解釈01-012では、この研修は現時点で日本看護協会認定看護管理者教育課程サードレベルを指すとされている。
年間2,000件という救急搬送件数は、三次救命救急センターの平均的な受入件数に相当する。全身麻酔手術1,200件は、病床規模で概ね400床以上の急性期病院でなければ年間積み上げが難しい水準。Aは三次救急機能を持つ基幹病院を前提に設計されていると読める。
さらに告示別添2では、介護保険施設等からの救急搬送は原則として件数に算入しないこと、夜間(22時から翌8時まで)の受入件数が全体の1割以上あることが要件となっている(夜間割合の実績は令和9年3月31日まで経過措置として不問)。
急性期病院Bの算定要件
Bは4つの選択肢のうちいずれかを満たせばよい構造になっている。
- ア:救急搬送件数が年間1,500件以上
- イ:救急搬送件数が年間500件以上かつ全身麻酔手術が年間500件以上
- ウ:基本診療料施設基準通知 別紙4に掲げる 人口20万人以下の地域 の保険医療機関で、当該二次医療圏内で救急搬送件数が最大かつ年間1,000件以上
- エ:基本診療料施設基準通知 別紙5に掲げる 離島 に属する保険医療機関で、当該二次医療圏内で救急搬送件数が最大
ア・イが原則コースで、ウ・エが対象地域(人口20万人以下/離島)の特例コースになる。特にウは、「当該医療圏で搬送件数が最大」という相対基準が採用されており、絶対数ではなく地域内の位置付けで判定される。別紙4の対象地域に所在する病院であれば年間1,000件程度で要件を満たせる設計になっている。
別紙4の「人口20万人以下の地域」と、別の用語である「医療資源の少ない地域」(基本診療料施設基準通知 別紙2)や「人口の少ない地域」(同通知 別紙3)は指定範囲が異なる別概念。本要件で参照されるのはあくまで別紙4の都道府県・二次医療圏一覧。
この「地域最多」の考え方は、急性期総合体制加算(A200)の「地域最多救急病院」区分と設計思想を共有している。
重症度・医療看護必要度の経過措置
急性期病院A・B、および急性期一般入院料には、令和8年度改定時点の届出病院に対する重症度・医療看護必要度の経過措置が用意されている。
- 令和8年3月31日時点で急性期一般入院料(急性期一般入院料6を除く)・7対1入院基本料(結核・特定機能・専門)の届出を行っている病棟で、旧算定方法における重症度・医療看護必要度の基準を満たすものは、令和8年9月30日までの間、令和8年度改定後の重症度・医療看護必要度基準を満たすものとみなされる。
- さらに、令和8年3月31日時点で現に急性期一般入院料1の届出を行っている病棟で旧基準を満たすものは、急性期病院一般入院基本料(=急性期病院A・Bを含む)の重症度・医療看護必要度基準を満たすものとみなされる。
つまり、4月の切替時点では現行区分で通過し、半年間かけて新基準への適合を進める移行パスが用意されている。ただし経過措置で緩和されるのは重症度・医療看護必要度の判定値のみで、救急搬送件数・全身麻酔手術件数・夜間割合といった実績要件は対象外。
何が新しい設計なのか
令和8年度改定以前の急性期一般入院料は、看護配置(7対1・10対1)と看護必要度の割合のみで区分されており、「救急搬送件数」や「全身麻酔手術件数」は急性期充実体制加算のような上位加算の要件にすぎなかった。今回の改定で、これらの急性期医療実績が入院基本料本体の区分要件に繰り上がっている。
つまり「7対1看護配置は維持しつつ、地域での急性期医療実績が不足する病院」は、急性期一般入院料1にはとどまれても、A区分には進めない構造になった。看護体制だけでなく、救急・手術という医療活動の出力量で病院の機能を切り分けるという意図がはっきりと見える。
中小病院がとるべき判断
現行が急性期一般入院料1〜6の病院がA/B/加算への移行を検討する際、次の観点で整理すると判断しやすい。
- 救急搬送件数と全身麻酔手術件数の直近1年実績を確認する。Aの要件(2,000件・1,200件)に届かないなら、Aは検討対象から外れる。
- Bのア〜エのいずれを満たしうるかを確認する。都市部なら原則アまたはイ。過疎地に該当するならウ、離島ならエ。
- Bを満たせる場合、B+加算2で1,898点。現行急性期一般入院料1(1,874点)より24点上がる。看護必要度や多職種配置などの加算要件をクリアできるかとセットで原資試算を行う。
- Bを満たせない場合、急性期一般入院料4+加算1で1,874点。急性期一般入院料1と同点数に到達する。加算1の配置基準(25対1の看護職員含む多職種配置等)を満たせるかが鍵。
- 4+加算1もハードルが高い場合、急性期一般入院料1〜6または地域一般入院料の継続で問題ない。令和8年度改定では既存区分の本体点数自体が底上げされている(急性期一般入院料1: r6 1,688 → r8 1,874、+186点)。
「軟着陸ルート」としての読み方
A・Bの新設を、報道や解説記事では「急性期の要件強化」「上位区分の絞り込み」と描くものが多い。それは事実の一面だが、中小病院にとっての読み方は逆になる。
7対1看護配置の維持は、看護師採用難の地域ではすでに限界に近い。ここで「急性期一般入院料1に残留できなければ点数が大幅に下がる」となると、地域の急性期機能が崩れる。それを避けるために用意されたのが、急性期一般入院料4(10対1)+看護・多職種協働加算1の経路。合計1,874点で、現行急性期一般入院料1と 完全に同じ単価 に到達する。
看護・多職種協働加算1の配置要件は、入院患者25対1で看護職員を含む多職種。疑義解釈02-036により、この25対1配置は 看護職員のみで構成してもよい。つまり理学療法士・作業療法士・管理栄養士等を新規雇用しなくても、病棟に余剰に配置されている看護師をそのまま加算要員にカウントできる。
この一連の設計を俯瞰すると、制度側の意図は明確になる。
- 7対1を維持できる病院はそのまま急性期一般入院料1(底上げ後1,874点)で継続
- 7対1が維持困難になった病院は10対1に下げつつ、加算1で単価を落とさずに着地
- 急性期医療の量的実績がある大規模病院はA(1,930点)へ上積み
「下り階段の段差を小さくする」設計であり、単なる要件強化ではない。
よくある誤解
A/Bの新設を「多くの病院が引き上げになる改定」と捉える解説を見かけるが、実態はそうではない。Aは三次救急機能を持つ基幹病院、Bも二次医療圏で相応の急性期実績を持つ病院が対象であり、全体への波及は限定的。
ただし、B+加算2、および急性期一般入院料4+加算1という2つの経路を経由すれば、中位の急性期病院でも現行急性期一般入院料1と同水準の単価に到達できる。改定の実質的なインパクトは、A・B本体よりも、この加算の組み合わせによる実質点数の再編にある。
A本体の要件にとらわれて疲弊するより、自院の現区分を起点に、B+加算2か、4+加算1か、既存区分の継続か、という3択で判断するのが多くの中小病院にとって合理的になる。
届出実務(チェックリスト)
令和8年4月20日に厚労省が発出した 施設基準届出チェックリスト↗(病院用、別添1。5月1日一部訂正版が現行)では、急性期病院A/B関連は次のように整理されている。
| 項番 | 区分 | 内容 | 新設/要件変更 | 届出期限 |
|---|---|---|---|---|
| 9 | 基本診療料 | 一般病棟入院基本料(急性期病院一般入院基本料) | 新設 | 令和8年6月1日 |
| 58 | 基本診療料 | 一般病棟入院基本料(備考:急性期一般入院料6、地域一般入院基本料及び特別入院基本料を除く) | 要件変更 | 令和8年10月1日 |
項番9は急性期病院A・Bを新規に届け出るルート(6月1日必着)。一方、項番58は 既存の急性期一般入院料1〜5を算定中の病院が、10月1日以降も継続して算定するための再届出 を指している。A/Bへの上乗せを選ばずに急性期一般入院料1〜5に残留する場合でも、10月1日までの再届出から逃れられない点は押さえておく必要がある。
このチェックリストは提出用書類ではなく、病院内部の届出漏れ防止ツールという位置付け(所管厚生局に提出しても届出完了にはならない旨が冒頭に明記)。ただし、項番ごとに新設・要件変更・届出期限が整理されている一次情報として、届出期日管理の骨組みに使うのが合理的。
なお、急性期病院A/B関連の根拠通知は5月1日付で 改定関連通知及び官報掲載事項の一部訂正↗(保険局医療課事務連絡、別添1〜12)が発出されており、施設基準通知(保医発0305-7号)も訂正版が現行。重症度・医療看護必要度の評価ルールや救急患者応需係数の記述精度が改善されているため、届出書類作成時は5/1訂正版を参照のこと(点数値・施設基準の根幹は不変)。